[画材考] 奥村美佳 : 京都で描くこと―職人の技に支えられて

2014年06月26日 18:45 カテゴリ:コラム

 

 

特別珍しい用具を持っているわけでもなく、自身のアトリエを見渡せば、筆、紙、墨、硯、胡粉、岩絵具など、日本画のごく普通の画材があるだけです。しかし、これらの画材は職人さんやお店の方との交流を通して現在私の手元にあるものばかりです。

 

絵筆なら、非常に細い葉脈や梢の先端などを金泥で描くためにイタチの毛で穂先の長く細い面相を、繊細な刷毛仕事のために厚みを薄くした刷毛を、筆屋さんと話し合って作っていただきました。宇治では熟練の職人さんが土地の豊富な水を活かし、丁寧に上質な胡粉を作り続けておられます。墨や硯は奈良のお店の方に墨に求める効果を聞いていただき、試すことができます。自身の表現に合った墨に出合えた時は、描くよろこびに通じるときめきを感じます。

 

職人さんもお店の方も一流の専門家ですが、学生や若い画家の疑問や相談にも親身に答え、描き手がより良い絵を描けるように協力してくださいます。単なる用具ではなく、それを作られる方々の心が込められ、使うに従い描き手の体の一部のように馴染む画材は生き物のようにも思えます。自身の表現で悩んだ時、職人さんなど専門家の知識や技術が解決の糸口を与えてくれることも、少なくありません。

 

画材の作り手と描き手が身近に共生する京都は、緊張もありますが、非常に恵まれた環境だとも言えます。この環境と画材を通して育まれるつながりに感謝しつつ、これからも制作を続けてゆきたいと思います。

 

奥村美佳 (おくむら・みか)

日本画家、創画会准会員、京都造形芸術大学准教授。10月中旬より、日本橋髙島屋での個展を予定(その後、横浜、京都、大阪の各店を巡回)。

 

「新美術新聞」2014年7月1日号(第1348号)5面より

 

 


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