[フェイス21世紀] : 満田晴穂さん

2013年11月25日 10:11 カテゴリ:コラム

 

「自在置物」 未来を担う手わざ

 

 

自在置物師と名乗る。国内の若手作家では唯一であろう。江戸時代中期に甲冑師の一派が生み出した金属工芸の妙技。満田晴穂は、現代において失われつつあったその技を受継ぎ、昆虫を中心に様々な動物を造形する。写実性の高さと体節・関節の「自在な」動きまでも再現する手仕事は、まさに超絶技巧。伝統を継ぎつつも今日にあって斬新な作品は、森美術館「六本木クロッシング2013」で紹介されるなど、現代美術としても大きな注目を集めている。

 

「幽明」 2013年 赤銅、銅、真鍮

 

出合いは東京藝術大学で彫金を学んでいた大学3年のとき。古美術研究旅行で自在置物の制作を国内で唯一続ける冨木家当代・宗行氏の工房を訪ね、「一目ぼれ」した。「その場で師匠(冨木氏)に頼み込み、夏休みの1ヶ月間、毎日工房に通って制作を学びました」。工芸に携わる人間として、「消えゆく技を伝えなければ」という思いもあったという。

 

初めて制作した自在置物「鈴虫」

同じく藝大工芸科出身の現代美術作家・中村哲也氏の紹介から、現在はラディウム-レントゲンヴェルケの取扱作家として発表を重ね、着実に評価を高めている。その一方で、日本現代工芸美術展など“伝統的な工芸の世界”への挑戦心もある。「僕はあくまでも技を売りとする工芸の人間ですから。やはり、その世界でも認められたい。現代美術という言葉を免罪符にしたくないんです」。高齢の師と自分以外に作家がおらず、技術を高めあうライバルはいない現状を「残念」と嘆くも「敢えて言うならモチーフがライバル。常に本物を前に妥協せず、どれだけ姿を精緻に再現出来るか。その闘いです」。

 

長らく歴史の中に埋没し、本格的に美術品として紹介されたのは80年代になってから。厳しい運命を辿ってきた伝統の技に、今、一人の若者が新たな「生」を与えようとしている。驚異の手わざが拓く自在置物の未来。これが期待せずにいられようか。

 

(取材:和田圭介)

 

満田晴穂(Haruo Mitsuda)さんプロフィール:

 

1980年鳥取県米子市生まれ。幼い頃より「工作」が好きな子どもだった。2002年に東京藝術大学美術学部工芸科に入学、授業の一環として実施された古美術研究旅行で自在置物作家・冨木宗行氏に出会い、自在置物師を志す。2008年に同大美術研究科修士課程彫金研究室修了。一人制作を続ける中で現代美術作家の中村哲也氏より、ラディウム-レントゲンヴェルケ代表・池内務氏を紹介され取扱作家に。以降は同ギャラリーでのグループ展や個展(09年より)、日本橋三越本店での個展(10年より)をはじめ、各地のアートフェアや美術館の企画展に出品するなどその活動が注目を集めている。今後は、2014年6月に日本橋三越で個展を開催予定。

 

【関連リンク】 満田晴穂と自在置物標本箱

 

新美術新聞2013年11月1日号(第1327号)5面より

 


関連記事

その他の記事