富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] : ゴードンさん賛歌

2013年07月08日 15:05 カテゴリ:コラム

 

ゴードンさん賛歌  富井玲子

 

ゴードンさんと棟方志功、1959年 写真協力:アトミックサンシャイン実行委員会

ゴードンさんと棟方志功、1959年 写真協力:アトミックサンシャイン実行委員会

 

昨年の12月末に89歳で逝去したベアテ・シロタ・ゴードンといえば、日本国憲法の男女平等条項を草案したアメリカ女性として知られている。まだ「ゴードンさん」になる前のシロタさんがミルズ大学を卒業してすぐ、まだ22歳のときのことだ。

 

そのゴードンさんを讃える会―偲ぶ会ではない―が、さる4月28日にジャパン・ソサエティとの共催でアジア・ソサエティで開催され、私も出席してきた(記録ビデオはこちら)。

 

日本では、現行憲法への貢献がクローズアップされているが、ゴードンさんの人生は進駐軍の仕事で終わったわけではない。

 

むしろ1947年にアメリカに戻り結婚してNYに居を構えてからのゴードンさんは、主にダンスや音楽など舞台芸術の紹介を通じて、日米交流、そしてアジアとアメリカの文化交流を牽引した。58年にはジャパン・ソサエティのパフォーミング・アーツ部門のディレクターに就任、70年にはそれまでコンサルタントをしていたアジア・ソサエティに移籍してアジア全般を専門分野とすることになった。

 

アジア・ソサエティ劇場のゴードンさん 写真:Mark Stern

アジア・ソサエティ劇場のゴードンさん 写真:Mark Stern

だから、今回の会も、最高裁の女性判事ソトマイヤーのビデオメッセージや、NY選出の女性下院議員のスピーチなど男女同権の観点からの賛歌にもまして、ヨーコ・タケベ・ギルバート(NY響指揮者アラン・ギルバートの母)のバイオリン演奏、エイコ&コマの舞踏、おもちゃのピアノを演奏した現代音楽のマーガレット・レン・タン、TVパーソナリティのディック・キャビットのユーモアのある回顧談など、芸術畑からの参加がめだった。ビデオメッセージにはアーティストも多く、父のレオ・シロタから幼少時にピアノを習いNY時代にはゴードンさんから日本紹介のアルバイトを斡旋してもらったオノ・ヨーコや、奇抜な朗読で故人を讃えたロバート・ウィルソンなど、生前の広範な交流関係がうかがわれた。

 

心に残ったのは、ゴードンさんが、アジアの舞台芸術をアメリカに紹介するにあたって、ヤワなオリエンタリズムに陥ることなく、本物であること、質が最高であること、を二大モットーとして仕事をしていたことだ。妥協ぬきで真の文化交流を作る。非常に共感できる姿勢である。

 

私個人は、ジャパン・ソサエティと日本の現代美術の関わりについて調べた際に、調査に協力していただいた。棟方志功や草間彌生の作品が飾られている応接間で、66年のジャパン・アート・フェスティバルの現地担当者としての経験をお聞きした。丹下健三が路上に作ったモニュメントの模型を見せながら、目を輝かせながら説明してくださった様子は今も懐かしく思い出す。

 

なお、貴重なゴードンさんの写真集とともに、2007年アトミックサンシャイン展の際に憲法起草などについて語ったロングインタビューが、こちらのサイトで見られる。(富井玲子)

 

「新美術新聞」2013年6月1日号(第1313号)3面より

 

 


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