[フェイス21世紀] : 松岡歩さん

2012年11月30日 14:06 カテゴリ:コラム

 

― 院展に生きる その誇りと覚悟 ―

 

松岡歩さん 東京藝術大学にて(2012年7月4日撮影)

故・平山郁夫氏の呼び掛けにより始められた若手の日本画家による研究発表展「有芽の会」。2012年7月に開催された第27回展で松岡歩は日本更生保護協会理事長賞を受賞した。出品作『こもりぬ』は紫を基調とした静かな作品。「隠り沼」の名のごとく、その画面は湿度を湛えて澱んでいるが、潜む蓮池の端正に描かれた情景は奥深く、観る者を引きつけて離さない。「この作品は一週間もかからずに出来た作品です。もっと描き進めるつもりだったのが、すっと筆を置くことが出来た。そういうのが時々あるんです」。

 

 

以前から感銘を受けている作品のひとつは東山魁夷の『年暮る』。動物が主題の柔らかく、ほのぼのした作品で人気を博す松岡だが「日本画家として最終的には『年暮る』のような“稀代の風景画”を描きたいと思っています。主張するのではなく、静かに、人を引き込むような作品」と話す。

 

東京藝術大学には4浪の末に合格。「4年もかかってしまった」という思いが強かったが、その4年間が糧となり藝大生として作品制作に思い悩む事はあまり無く、順調だった。しかし、院展だけは一筋縄ではいかなかった。2007年に初入選するも、その後も少なからず落選の憂き目にあい、涙を飲んでいる。「先生方としては、少なくとも落選するような作品を描いては欲しくないというのが本音でしょうね」と苦笑いを見せる。

 

 

「星眠」 45・5×53cm 紙本彩

登る頂は高く険しいが、今回、院展に出品する作家が数多い「有芽の会」で、「初めていい絵が描けたと思った」作品が評価されたことは大きな自信に繋がっただろう。現在は9月の院展に出す作品を制作中。今年から藝大の助手を務めている松岡には、院展を目指す学生たちの目標となるような作品を描かなければという思いもある。

 

院展に生き、院展の意志を自らが継承する。日本画家・松岡歩の眼差しに、その誇りと覚悟を感じた。(取材/和田圭介)

 

 

 

 

松岡歩さん:プロフィール

1978 年神奈川県横浜市生まれ。2007年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻日本画修了。第62回春の院展初入選。第92回秋の院展初入選。2010年東京藝術大学大学院日本画科博士後期課程修了。現在、日本美術院院友、東京藝術大学教育研究助手。2014年初に日本橋三越で個展開催予定。

 

「新美術新聞」2012年8月1・11日合併号(第1287号)5面より

 


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