[新美術時評] 美術と教育〈1〉 野呂洋子

2013年03月21日 16:18 カテゴリ:美術と教育

 

「美術と教育を考える」をテーマにそれぞれの視点から熱い議論が交わされた

私が思う美術と教育

 

 

野呂洋子(銀座柳画廊副社長)

 

 

画商という仕事を始めて、18年がたちました。多くの諸先輩方からは、「たったそれくらいのキャリアで何をいうのか」という声が聞こえてきそうですが、それなりに景気の波も経験してきているつもりです。さらに、夫であり梅田画廊の3代目という生い立ちを持つ社長の周りには、画商歴60年という義父を始め、多くの諸先輩から画商という仕事の難しさを教えて頂いています。その中で、私なりに自分の役割というものを考えるようになりました。

 

ケン・ロビンソン氏による「学校教育と創造性」がビデオ上映された

私自身が画商になるとは思いもよらないキャリアを積んでいた中、新規のお客様を増やそうと活動していると、必ず聞こえる声が「絵は買うものじゃなくて、見るものでしょ」というものでした。さらには「え、絵画って購入することができるの?知らなかったな~」という人も一人、二人ではありませんでした。そして、東日本大震災を経験した後には、「絵画を購入することに罪悪感を感じる」とか、「絵画を購入するのは、一部の富裕層がすることであって一般庶民の私たちには関係のないことでしょ」と私から見ても大金持ちのIT長者の方から言われました。

 

一体、この絵画に対するイメージはどこからくるのでしょうか?そして、このイメージを払しょくするために、私は何をすればいいのか?という問いかけを自分自身に投げかけ、それに対する答えが「美術と教育を考える会」を立ち上げようという思いでした。つまり、子供の頃からの教育からやり直さなければいけない事態が起きているという認識です。そして、画商という商売人が今までは閉ざされた空間と閉ざされた人間関係の中で成立していたものが、行き詰ってしまっているという事実です。

 

シンポジウムの会場となった東京・中央区立泰明小学校の入口

私と志を同じくする銀座ギャラリーズの仲間で東京画廊の山本豊津さんや、靖山画廊の山田聖子さん、そしてギャラリー広田美術の廣田登支彦さんなど画商が社会に対して奉仕活動をしていこうということになりました。昨年12月1日には、そのキックオフシンポジウムとして、文化庁長官の近藤誠一さん、国立西洋美術館館長の青柳正規さんにもご登壇いただきました。その輪は全国の教育関係者や美術館学芸員にも広まり、大きな波紋を投げかけていくことを信じています。

 

教育というテーマは非常に大きなテーマで、誰もが興味を持つ内容だと思います。それだけに、一人一人が自分なりに意見を持っていてシンポジウムでは議論が白熱するだけでなく、参加者たちからは自分にも意見を言わせてほしかったというコメントを頂きました。美術の教育普及は、主に学校と美術館が実施しています。ですから、画商も美術の教育普及に参加することで、「絵は購入することができる」ということと「自分の好きな絵を家にかけることで幸せになることができる」ということを多くの人に伝えていきたいと思っています。

「新美術新聞」2013年1月1・11日号(第1300号)2面より

 

【関連リンク】 銀座柳画廊 公式ホームページ

【関連リンク】 「美術と教育を考える会」議事録 (銀座柳画廊ホームページ内)

 


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